アメリカの培養肉企業UPSIDE Foodsは16日、アメリカ食品医薬品局(FDA)から培養鶏肉の安全性について「異議なし」のレターを受け取ったことを発表した。
これにより、UPSIDE FoodsはFDAが培養肉の安全性を認めた世界で最初の企業となった。同レターは、UPSIDE Foodsの培養鶏肉を食べても安全であるという同社の結論を、FDAが認めたことを示している。
今回のFDA認可により、UPSIDE Foodsが現時点で培養肉をアメリカで市販できるわけではないが、上市は目前に迫っている。
FDAは、培養肉に関する市販前協議が完了し、UPSIDE Foodsが提出した安全性に関する情報について異議はないと発表。販売にあたっては「ほかの連邦要件を満たす必要がある」と言及している。
具体的な要件として、アメリカ農務省食品安全検査局(USDA-FSIS)による生産施設の検査済み証明(grant of inspection)や食品自体の検査済みマークの取得、施設登録を含むFDAの要件などを挙げている。
UPSIDE Foodsが世界で初めてFDAの認可を取得
FDAは培養鶏肉の安全性を確立するためにUPSIDE Foodsが提出したデータを審査した詳細な文書を公開した。FDAはさらに、UPSIDE Foodsが作成した包括的な文書を公開した。104ページにわたるこの文書には、UPSIDE Foodsの培養鶏肉の安全性と生産プロセスに関する詳細な情報が掲載されている。
UPSIDE Foods の創業者でありCEOを務めるUma Valeti氏は、「懐疑的な人が多数いる中、私たちはUPSIDEを立ち上げました。今日、培養肉についてFDAから『異議なし』のレターを受け取った最初の企業として、私たちは再び歴史を作りました。これは肉生産における新たな時代の幕開けに向けた重要な一歩であり、アメリカの消費者がまもなく、動物細胞から直接作られた美味しい肉を食べられる機会を得ることに感激しています」とコメントしている。
FDAに続きUSDAの認可取得へ
アメリカでは、培養魚はFDA単独の規制を受けるのに対し、培養肉はFDAとUSDA両方の規制を受ける。このため、UPSIDE FoodsはUSDA-FSISと協力して、同社の培養鶏肉を販売する前に承認に必要な残る部分をクリアする必要がある。発売時期の詳細は現時点では明らかにされていない。
FDAのレターによると、今回安全性が認められたのはセキショクヤケイ(学名:Gallus gallus)から採取した細胞を培養した培養鶏肉となる。UPSIDE Foodsは2021年10月に安全性に関する申請書類をFDAに提出。その後数回の修正申請を経て、今回のレター回答にいたった。
アメリカ市場で培養肉を市販するための歴史的な一歩
2015年設立のUPSIDE Foodsは培養肉の安全性と透明性を確保するための枠組みの構築を支援してきた。2018年には北米食肉協会と提携して、FDAとUSDAによる培養肉の共同規制監督を提唱。2019年には、細胞培養で肉、鶏肉、魚介類を生産するスタートアップ8社から構成される、世界初の培養肉の業界連合AMPSイノベーションを共同で立ち上げている。
UPSIDE Foodsは昨年11月、カリフォルニア州エメリービルに約4900㎡の生産施設(EPIC)を開設した。2022年4月にはシリーズCラウンドで業界史上最大となる4億ドル(当時約510億円)を調達し、さらに大型の培養肉生産工場の建設計画を発表した。時価総額10億ドルのユニコーン企業であり、今年1月には培養シーフード企業Cultured Decadenceを買収している。
これまで培養肉の販売を認めたのはシンガポールのみだが、アメリカがこれに続くのは時間の問題だろう。UPSIDE Foodsのほかにも、培養魚、培養肉、培養脂肪の各社がアメリカにパイロット工場を開設したり建設計画を進めており、FDAの認可は、培養肉をアメリカ市場へ投入する上で歴史的な一歩となる。
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アイキャッチ画像の出典:UPSIDE Foods