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電気で塩味を強化|キリンが「エレキソルト カップ」新発売、減塩スープで試してみた

新発売された「エレキソルト カップ」(左)とリニューアルされた「エレキソルト スプーン」(右)
Foovo(佐藤)撮影

キリンホールディングスは2025年9月9日、電気の力で塩味やうま味を増強する新商品「エレキソルト カップ」を発売した。

昨年発売した減塩サポート食器「エレキソルトスプーン」に寄せられた声を受けて新開発したもの。公式オンラインストアのほか、11月からはハンズ、ビックカメラなどでの店頭販売も開始する。

9月9日に開催された発表会で、「エレキソルト カップ」で実際に減塩スープを試してみた。

キリン、「エレキソルト カップ」を新発売

出典:新エレキソルト発表会 キリンホールディングス提供

キリンは2019年にヘルスサイエンス事業を開始。アミノ酸事業の譲渡により2025年度には同事業初の黒字化を見込む。2030年に事業利益300億円超をかかげ、「グループ全体の利益成長を牽引する事業にすることを目指しています」とヘルスサイエンス事業本部長の吉村透留氏は述べた。

キリンはプラズマ乳酸菌を中心に「土台の健康づくり」を推進しながら、「個別の健康課題」解決も目指している。それを具現化したのが、2024年5月に発売した「エレキソルト スプーン」だ。

エレキソルト事業責任者を務めるヘルスサイエンス事業部の佐藤愛氏は「日本人はWHOが推奨する約2倍の食塩を摂取しており、日本などアジアは比較的しょっぱいものを好む食文化を持っています」と述べ、減塩の重要性を理解しても続けにくいこと、慣れた食事を急に大きく変えると満足感や食欲の低下につながると指摘した。

そこで開発したのが、電気の力で減塩食の物足りなさを補うソリューションだ。

Foovo(佐藤)撮影

「エレキソルトスプーン」は、販売開始から昨年12月までの7ヵ月で2650台を販売し、予定台数の7倍を上回る注文数を獲得した。購買層の4割は自身の減塩対策として、同じく4割が減塩に課題を感じる家族や友人向けに、残る2割は予防の観点からの購入だったと佐藤氏は述べた。

反響があった一方で、スプーン以外の形態を望む声や、食洗器で洗いたいとの声を受けて、明治大学とヤーマンと協力し、今回の新商品開発に至った。

減塩スープでエレキソルト カップを体験してみた

Foovo(佐藤)撮影

こちらが実際のエレキソルト カップ。見た目は通常のマグカップと変わらない。

電極パネルが内蔵された取っ手を持ち、カップに口をつけることで、カップ内部の電極から微弱な電流が流れ、塩味やうま味など味わいの増強を感じられる仕組みだ。

微弱な電流を流すことで、口の中で分散している塩味のもととなるナトリウムイオンを、舌の方に引き寄せて塩味を感じさせやすくしている。同社によれば、塩味の増強効果は約1.5倍だという。

Foovo(佐藤)撮影

発表会で提供されたのは、塩分濃度を通常の0.5~0.6%に抑えたミネストローネスープ。強度は3段階から選べる。0.5秒以上カップに口をつけるのがポイントで、口をつけると約2秒間、微弱な電流が流れる。

強度1 点滅した状態 Foovo(佐藤)撮影

実際に試してみると、最も弱い強度1でも、カップに口をつけた時に味が増強されるのを感じた。舌がスープに触れた時、かすかに電気が”入ってくる”感じがあり、その瞬間、確かに味が増強される。塩味だけでなく、スープの味全体が増強される印象を受けた。筆者は強度1と2で十分に感じたが、カップ内のスープが少なくなると、増強効果は弱まる印象だった。

佐藤氏によれば、カップ型に先立ち、おわん型も検証していたたが、技術的課題が多く、実用化できなかったという。ヤーマンの防水・電気設計技術などを活かし、カップ型として製品化に至った。

試作した実験機 Foovo(佐藤)撮影

なお、国内ではエレキソルト以外にも減塩ソリューションの開発が進んでいる。

味の素は昨年9月、デバイス用の「電気調味料」技術を開発した。咀嚼・嚥下中でも電気刺激を感じることができるもので、首または耳にかけて装着する複数バージョンの試作品を開発している。

キリンは2025年、新商品の販売数目標として1万台以上を掲げる。2026年にはアジアでの販売開始を目指している。

吉村氏は「顕在化した健康課題だけでなく、潜在的な健康課題にも挑戦し、将来につながる事業領域を先取りして、新しい健康価値を届けたいと考えています」と述べた。

キリンは長期的に、減塩・うま味にとどまらない電気味覚の技術開発も視野にいれており、砂糖の過剰摂取の抑制といった次の課題にも広がることを期待したい。

 

(参考)公式プレスリリースはこちらから。

 

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アイキャッチ画像はFoovo(佐藤)撮影

 

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