味の素は今月、皮膚を通じた微弱な電気刺激で味覚をコントロールする「電気調味料」技術を開発したと発表した。
日本人の1日あたりの塩分摂取量は平均10.1gと、世界保健機構(WHO)が推奨する5g未満を大幅に上回る。塩分の過剰摂取はさまざまな健康リスクを引き起こすため、減塩の重要性が叫ばれている。今年5月にはキリンホールディングスがうま味や塩味を増強する「エレキソルトスプーン」を発表した。
味の素の「電気調味料」は、首または耳にかけて装着するデバイスの電極から微弱な電気が流れることで、薄味の食品でも味を強く感じることができる仕組みだ。同社はこれまでに、首または耳にかけて装着する複数バージョンの試作品を開発している。
従来のスプーンやフォーク型のデバイスは、食器が直接口に触れている必要があったが、「電気調味料」は、咀嚼・嚥下中でも電気刺激を感じることができるため、液体だけでなく固体の食品にも対応可能である。
この「電気調味料」の研究は、東京大学とお茶の水大学との共同で進められ、その成果はHypertension Research誌に発表された。
研究では、0.3%および0.6%の食塩水を用いた実験で、電気刺激がある場合に、塩味が有意に強まることが実証された。
また、液体・固体、和食・洋食・中華といった6種類の減塩食品のおいても、同様に塩味が有意に強まることが確認された。さらに食品によっては、うま味や酸味の増強、風味の変化も確認された。このことから、電気刺激は味だけでなく風味にも影響を与えることが示された。
プロジェクト全体を統括した味の素コーポレート本部R&B企画部の松本凌氏は、自身の父親が晩年に味覚障害で苦しんだ経験から、「誰もが最期の瞬間まで食の楽しさを失わない社会を実現したい」との思いでプロジェクトを推進してきた。
当初はフォーク型のデバイスを検討していたが、舌と接触していなければ効果が得られないため、すぐに現在の形状に転換した。デバイスのデザインでは、減塩を意識する人々が前向きに使用できるよう、「かっこよさ」も重視したという。
さらに、プロジェクトの研究統括を担当した同社食品事業本部の船水拓実氏は、「電気調味料」の普及と並行して、「電気調味料」専用の食品開発も進めることで、真の意味でウェルビーイングに貢献できると考えている。
松本氏は、将来的に自分で調整した「電気調味料」レシピを海外の人と共有する構想も思い描いている。
「電気調味料」は、減塩を目指す人々に食の楽しみを提供するだけでなく、食品業界における新たな製品開発の可能性を広げる技術でもある。さらに、味覚データの収集・共有が進むことで、個々の健康ニーズに合わせた食体験や、パーソナライズされた健康管理が実現する可能性がある。
参考記事
~世界初、経皮電気刺激を活用して減塩食品の味を調整~ 味の素㈱、東京大学、お茶の水女子大学との共同研究で 「電気調味料」の技術を開発
電気の刺激で味覚が変わる!?「おいしい減塩」を実現する味の素社の「電気調味料」とは?
関連記事
アイキャッチ画像の出典:味の素
この記事へのコメントはありません。