出典:EU
欧州委員会は今年7月に、ライフサイエンス分野の戦略の中で、精密発酵・バイオマス発酵を先進的発酵技術と位置づけ、市場投入を早めるための規制面の取り組みの一つとして「EUバイオテクノロジー法(以下、EUバイオテック法)」を提案する方針を発表した。
しかし、今月16日に欧州委員会が発表したEUバイオテック法案では、新しい食品を市場に投入したい企業に対して規制当局がより手厚く助言できるようにする仕組みが盛り込まれた一方で、規制サンドボックスの対象から精密発酵などの新規食品は除外されている。
GFIヨーロッパは、欧州委員会がEUバイオテック法における規制サンドボックスの対象から新規食品を除外したことについて「機会損失」だと批判している。
EUバイオテック法案は、一般食品法(EC No.178/2002)など既存のEU法に条文を追加・改正する形となっている(Article 56・PDFp113/以下PDF表記・リンクは省略)。
具体的には、①EFSAが研究設計や試験戦略についての申請前の事前アドバイスを行うこと(Article 32a差し替え/p8,114)、②規制サンドボックス制度(Article 49a/p115)が追加されている。
「規制サンドボックス(regulatory sandbox)」とは、一定期間・限定された環境の中で、参加者が市場投入前の段階で、革新的な製品または物質、関連するプロセス、データ、その他の規制要件を試験できる仕組みをいう(p113)。

Foovo作成
しかし、同法案では下記の理由で、新規食品は規制サンドボックスの対象から除外された。
規制サンドボックスは、一部の製品に認められるべきではない。これまでの経験から、ある種の新規食品は、その受容性をめぐって、消費者のさまざまな層において倫理的・文化的な懸念を引き起こすことが分かっている。
こうした側面は、欧州議会および理事会による規則(Regulation (EU) 2015/2283)で定められた、厳格な既存の規制枠組みの中で対応するのが最も適切である。そのため、新規食品は規制サンドボックス制度の対象から除外するのが適切である(p56/(115)より抜粋)。
条文では、規制サンドボックスの対象を「食品の生産、加工、流通の全段階(ただし新規食品を除く)ならびに食品用動物向けに生産される飼料または食品用動物に提供される飼料」とし、新規食品が対象外であることを明記した(下記画像/p115)。
このEUバイオテック法は「革新的なアイデアを研究室から市場へ移行させることで、欧州のバイオテクノロジーの潜在力を高めることを目的」としている。
プレスリリースでは主に医療・医療機器分野に焦点をあてているが、食品分野においても、例えばArticle 32aの差し替えは、細胞性食品や精密発酵など新規食品を開発する企業にとって、審査期間の短縮に資する可能性がある。
具体的には、EFSAによる申請前アドバイス(pre-submission advice)の範囲を拡大し、従来の申請書類の形式面に加え、研究設計(study design)や試験戦略(testing strategies)など科学的事項についても、申請前に助言を受けられるようにすることを提案している (p55)。
背景には、特に中小企業が必要な試験データの要件を十分理解できず、申請や審査の長期化につながっているという課題がある(p55)。 こうした申請前助言の拡充に伴うEFSAの業務増を見込み、職員増(ADやAST等)の必要性も具体的に示している(p31-33)。
欧州で新規食品認可を目指す企業が、求められる試験データの不備で不適合性通知を受け取り、審査が長期化している現状をふまえると、申請前に試験設計などについて事前アドバイスを得られる機会は、精密発酵や細胞性食品などのスタートアップにとっては市場投入を早める上で重要だ。
その点については、GFIヨーロッパも、新規食品を市場に投入したい企業に対して規制当局がより手厚く助言できるようにする仕組みが盛り込まれたことを評価している。
その一方で、同法案は規制サンドボックス(Article 49a)から新規食品を除外しており、一定期間・限定された環境の下で、市場投入前の段階にある製品・物質などを当局が試験的に検証する枠組みは、新規食品には適用されない設計となった。
一部の精密発酵スタートアップは申請を撤回し、今年1月にEFSA申請を発表したモサミートはEFSA上にまだ情報が公開されない(2025年12月28日時点)など、長期化している現状を踏まえると、今後、EU市場を規制戦略から外す企業が出てくることも考えられる。
GFIヨーロッパのシニア政策マネージャーSeth Roberts氏は、「欧州委員会が新規食品をサンドボックス制度の対象から除外したという決定は、残念な判断です。本来であれば、エビデンスに基づく規制のあり方を前進させると同時に、新しい製品についてオープンな対話の場を設け、消費者の信頼を高めることができたはずの、大きな機会を逃したことになります」とプレスリリースで述べている。
※本記事は、プレスリリースおよびEUバイオテック法案をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
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アイキャッチ画像の出典:EU

















































