アップサイクル

味の素、CO2由来の微生物タンパク質「ソレイン」使用の新製品をシンガポールで限定販売

ソレイン使用の月餅

味の素がシンガポールで今月、二酸化炭素を原料に作られた代替タンパク質を使用した製品を限定販売する

フィンランド企業ソーラーフーズ(Solar Foods)の代替タンパク質ソレインを使用した月餅アイスクリームサンドの2製品が、シンガポールの商業施設(8月12日より高島屋、8月30日よりOne Holland Village)に開設される味の素のポップアップストアで期間限定で販売される。

味の素は、地球環境に配慮した「新しい食のライフスタイル」を提案するグリーンフード事業をシンガポールで今月より開始。ソレイン使用の2製品は、新ブランド「Atlr.72アトリエ・セブンツー)」の第1弾製品として販売される。

味の素は限定販売後、消費者が試しやすいスイーツから日常食へと段階的にカテゴリーを拡大していく予定。販売チャネル開拓の一環として、直営店舗の展開も検討しながら、シンガポール以外の国・地域への展開も目指す考えだ。

2製品に使用されているデコレーションクッキーではクッキーにコクを出すため、バターの一部をソレインで代用。アイスクリームサンドではアイスクリームにソレインを一部使用している。

味の素、微生物タンパク使用の製品を今月シンガポールで販売

ソレイン使用のアイスクリームサンド 出典:Solar Foods

ソレインは二酸化炭素、電気、微生物(水素細菌)から作られるタンパク質で、二酸化炭素を原料に使用するゆえに空気タンパク質とも呼ばれる。

微生物に水素、二酸化炭素、ミネラルを与えることで、微生物が成長し、体内に蓄積された有機物質をタンパク質としている。このプロセスでは電気により水を分解し、水素、酸素を生成。微生物が水素を酸化する際に生じるエネルギーを使って二酸化炭素を固定し、タンパク質を含む有機化合物に変換している

出典:Solar Foods

通常、微生物によるタンパク質生産では栄養源として糖類が使用されるが、ソーラーフーズは二酸化炭素を使用。このため、ソレイン生産は従来の農業に比べて、土地や水の使用量が大幅に少なく、天然資源にも依存せず、再生可能エネルギーを使用するため、持続可能なタンパク質生産方法とされる。

味の素がソーラーフーズと提携したのは昨年5月。当時、ソレインを使用した商品開発・シンガポールでの市場性検証を2024年度より開始すると発表していた通り、今月12日から期間限定で、シンガポールの消費者はソレインを使用した製品を購入できるようになる。

ソーラーフーズ、数ヵ月以内に米国市場進出へ

出典:Solar Foods

ソレインの販売が認められているのはシンガポールのみ。ソーラーフーズは2022年10月、シンガポール食品庁(SFA)からソレインを含む食品の販売認可を取得した

同社は今後数ヵ月以内にアメリカ市場への進出も予定している。進出時期はアメリカでの販売に必要なGRASプロセスの進捗にもよる。4月のプレスリリースでは2024年後半のアメリカ進出言及していたことから、年内の販売が予想される。

人口が約560万人のシンガポールと比べ、人口が約3億3,650万人のアメリカではソレイン導入による市場へのインパクトが違う。

ソーラーフーズはシンガポールでこれまで、アイスクリーム販売チョコレート販売中華レストランでの提供など、期間限定での販売を行ってきた。いずれも数ヵ月未満の限定販売であり、ソレインの商品開発・消費者の反応をテストする狙いがあったと思われる。

出典:Solar Foods

味の素による試験販売実現についてソーラーフーズ共同創業者兼CEO(最高経営責任者)のPasi Vainikka氏は、「ソレインの商業利用に向けた大きな一歩」だと述べている。

今年4月、ソーラーフーズはフィンランド、バンターにある商用工場Factory 01の稼働開始を発表した。Factory 01の稼働により、年に500万~800万食のソレインを使用した食事を提供可能になり、食製品への適用が拡大する。

アメリカ市場進出が実現すると、ソレインを使用した食品がさらに広く流通することになる。ソーラーフーズはイギリス、EUなど主要市場でも新規食品認可に向けた承認申請を提出している。

同社はソレインだけでなく、二酸化炭素から乳タンパク質を作る精密発酵プロジェクトも進めており、こちらの研究開発の進展も気になるところである。

 

参考記事

New Solein-powered products launched in Singapore

味の素㈱、新ブランド「Atlr.72™(アトリエ・セブンツー)」ローンチ シンガポールを起点にグリーンフード事業をスタート

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Solar Foods

 

関連記事

  1. AIエンジンで代替タンパク質を開発するThe Live Gree…
  2. 発酵タンパク質投資が復調:欧州での上半期投資額が前年超え
  3. 牛に頼らず酵母で乳タンパク質を再現するフランス企業Bon Viv…
  4. 牛を手放し「型破り」な転身を実現したイギリス農家と、それを支援す…
  5. 筑波大学の萩原大祐准教授、麹菌による代替肉の事業化に向けてクラウ…
  6. 乳業大手フォンテラとDSMが精密発酵スタートアップ設立を発表
  7. Quornの親会社Marlow Foods、マイコプロテインを他…
  8. 乳業大手フォンテラ、精密発酵・バイオマス発酵企業2社と提携(No…

おすすめ記事

タイソンフーズが出資するFuture Meatが培養鶏肉のコストダウンに成功、2022年に市販化へ

イスラエルの代替肉企業Future Meatは、自社の培養鶏肉の生産コストを1/…

インドNymbleの料理ロボットJulia(ジュリア)がSKS2020に初登場!

スマートキッチンサミット2020には10社のスタートアップが登場した。そ…

ネスレが精密発酵によるミルク「Cowabunga」の試験販売を開始

ネスレは今月、精密発酵企業パーフェクトデイの乳タンパク質を使用したミルク製品「C…

EUが精密発酵・藻類由来食品を開発する企業に約78億円の資金提供を発表

欧州連合(EU)は今月、欧州イノベーション会議(EIC)の「Work Progr…

ドイツのBettaF!sh、海藻と植物を使用した代替サーモンSAL-NOMを発売

ベルリンを拠点とする代替魚スタートアップBettaF!shは今月、代替マグロ製品…

トッピングから焼き上げまで3分で完成するピザ自販機Piestro

新型コロナウイルスの影響により、人との接触を減らせる「次世代自販機」が海外では注…

精密発酵レポート・予約注文開始のお知らせ

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovo Deepのご案内

精密発酵レポート・予約注文開始のお知らせ

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovoの記事作成方針に関しまして

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

▼運営者・佐藤あゆみ▼

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

最新記事

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(09/16 13:37時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(09/16 23:07時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,940円(09/17 02:48時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
2,156円(09/16 19:30時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(09/16 11:52時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(09/16 22:28時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP