出典:Believer Meats
イスラエルの細胞性食品企業Believer Meatsが事業を停止したことが明らかになった。
2018年創業の同社は、2021年に世界で最初の培養肉パイロット工場を開設し、シリーズBラウンドで約394億円を調達した。今年7月には年産12,000トンの工場を完成させ、アメリカ食品医薬品局(FDA)から「質問なし」のレターを取得。10月にはアメリカ農務省(USDA)の承認も得て、アメリカで販売できる道筋がついたばかりだった。
規制もクリアし、世界最大級の工場を完成させた「成功モデル」に見えた企業に何が起こったのか。
イスラエルのBeliever Meatsが事業停止へ

イスラエル企業Believer Meatsの培養鶏肉 出典:Believer Meats
第一報を報じたAgFunderの報道によると、裏側では工場建設費の支払いが滞っていた。
工場の設計と建設を請け負ったGray Constructionは、Believer Meatsから3,400万ドル(約53億円)の未払いがあるとして提訴していた。
両社は2025年10月に猶予に関する合意を結び、Believer Meatsは2025年12月5日までに2,200万ドル(約34億円)を支払い、その後2026年に残額1,200万ドル(約19億円)を分割して支払うことで合意したとされる。しかし、期限までにBeliever Meatsが現金を用意できなかった。
Gray側は、Believer Meatsは工場物件を差し押さえ・売却するための追加書類を実行(署名)しなかったと主張している。一方、Believer Meatsは、Gray側が設計施工契約を履行していないと主張しているという。
Believer Meatsはレイオフを実施し、工場や経営幹部レベルで人員削減を進めたとAgFunderは報じている。支払い能力の維持を図る試みであった可能性はあるが、未払い建設費の返済計画との関係については不明だ。
最終的に、同社の人事担当幹部のAnne Schubert氏が先日、「2年にわたるBeliever Meatsとの旅が終了した」とリンクトイン上でコメントし、事業終了が対外的に知られることとなった。
「イノベーションの本当のコスト」

出典:Believer Meats(イスラエルにあるパイロット工場)
Believer Meatsからの説明は現時点で公表されていないが、規制・大規模工場をクリアした希少なプレーヤーが事業停止に追い込まれた背景には、巨大工場への先行投資も一因として考えられる一方で、規制の時間軸や投資環境など複数の要素がかみ合わなかったことも考えられる。
同社のプロセス開発部長Idan Shafrir氏はリンクトインで、Believer Meatsが事業停止したことを認めた上で、4年間で研究開発キッチンから大規模工場、FDA・USDA承認にまで到達した歩みを振り返り、「あらゆる面で成功だった」と述べた。
一方で、不確実性の中で前進するイノベーションでは、開発した製品が市場に届かない結果を受け入れざるを得ないこともあるとし、それが先駆者であることの一部であり、「イノベーションの本当のコスト」だと述べている。
Believer Meatsの事例は、業界の先駆者が必ずしも主力企業として残るとは限らない現実を突きつけてくる。
過去には、ウェブ普及を牽引したものの、マイクロソフトに主役の座を奪われたNetscapeや、携帯電話で先駆けたBlackBerryのように、市場を切り拓いた企業が主役として残らないことは他産業でも起きている。
一方で、先駆者の歩みは「成功」「失敗」の二択で測れるものではない。規制の前例を作り、量産の最初の章を開き、販売事例を出すことで産業全体が前進するからだ。
しかし、細胞性食品の市場投入は全体的に依然として限定的であり、市場が開放されていない国もある。こうした未熟な市場では、インテグリカルチャー、Avant、Umami Bioworks、ImpacFatなどのように、事業戦略の一環として化粧品など非食品分野での収益化を優先する戦略や、アレフ・ファームズが「慎重で資本効率の高いスケールアップ」のために進めるアセットライト戦略など、予測不可能な世界情勢において生き残るための戦略が求められていくだろう。
事業停止を失敗事例とみるのではなく、知見や人材、工場などの資産が引き継がれることが重要だ。Believer Meatsの歩みで蓄積された資産は、細胞性食品を社会に根付かせていく上で貴重な財産となるはずである。
※本記事は、AgFunderの報道をもとに、Foovo独自の整理と分析を加えて執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
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アイキャッチ画像の出典:Believer Meats













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