Hanne Volpin氏 Foovo(佐藤あゆみ)撮影
ココアバターに注力するイスラエルの細胞性カカオ原料企業Celleste Bioの共同創業者兼CTO(最高技術責任者)Hanne Volpin氏は、「チョコレート製造においては1粒のカカオ豆に対して、さらに半粒分のココアバターが必要になります」と述べ、ココアバターが特に不足している現状を指摘する。
近年、気候変動や病害による影響でカカオ豆の安定生産が危ぶまれており、同社は植物細胞培養技術を用いて、カカオより先にまずココアバターの事業化を目指し、2022年に設立された。昨年には植物細胞培養によりココアバターを生産したことを発表した。
Volpin氏は「チョコレート用のココアバターは常に不足していますし、欧州では2020年末以降の森林伐採地に由来する原料を禁止する規制が進んでおり、トレーサビリティの問題が生じています」と述べ、環境とサステナビリティの重要性から、初期よりココアバターに照準を当てたと、サンフランシスコで開催されたFuture Food-TechでFoovoに述べた。
培地がシンプルな植物細胞培養ココアバター

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Volpin氏によると、細胞性食品の中でもココアバターは細胞性食肉と比べて製法面で優位性がある。
植物細胞はヒトの幹細胞に似た多能性を持ち、培地の成分は水・糖・ビタミン・ミネラルが中心で、細胞性食肉に必要な成長因子やホルモンはほぼ不要だという。同社の知的財産の中核は、この「ココアバターを作らせる培地組成」にあるという。
一方で、培地がシンプルだからといって生産が容易というわけではない。 Volpin氏は、植物細胞は細菌に比べて増殖速度が遅いため、わずかな汚染でも細菌が優勢になり、培養を乗っ取ってしまうリスクがあると説明する。そのため、培地に複雑な成長因子やホルモンを必要としない一方で、製造現場では高い無菌性の維持が不可欠になる。
さらにCelleste Bioは設立当初から、AIを活用した計算プラットフォームを構築してきた。
使用するカカオの品種と培養条件という2つのパラメーターを掛け合わせ、苦味成分の低減や温暖な地域に合わせた融点の調整など、製品特性の予測・最適化が可能だという。公開されているカカオ樹のデータベースとも連携し、蓄積データを増やしながら予測精度を高めている。
年内に1,000Lへのスケールアップ、TEAを計画

出典:Celleste Bio
Volpin氏によれば、1,000リットルのバイオリアクター1基で年間約2トンのココアバターを生産できる計算であり、これはカカオ農園1ヘクタール分に相当する。
価格競争力については、10,000リットルの規模で既存のココアバターと同等の価格帯に到達できると見込んでいる。2026年末には1,000リットルへの移行を完了し、技術経済性分析(TEA)の実数値を得る予定だ。
市場全体への影響という観点では、世界的なココアバター供給の約10%の市場シェアを獲得するには、5万リットル規模のバイオリアクターでの生産を実現する必要があるとVolpin氏は述べた。
大型工場への投資はコストが高いため、当面はCDMO(開発・製造受託企業)などのパートナー企業と協力しながらスケールアップを進める。
初期段階では自社工場を持たないことで設備投資の負担を抑えながら、複数のCDMOと協業し、スケールアップに適した生産設備の構成を見極めている段階だ。Mondelez Internationalは初期から戦略的パートナーとしてCelleste Bioに出資しており、将来的に具体的な協業に入る可能性もあるという。
Volpin氏は、市場投入は2027年末から2028年初頭を想定していると述べた。特に、重視する市場や上市のタイミングは、規制当局からの回答のスケジュールに左右されるため、審査通過が早かった市場から順次販売を開始する。
韓国では植物細胞の生産拠点設立に向けた動きがあり、協業する現地企業(非公開)が韓国にセンターを設置する可能性もあるという。
2032年頃に世界市場の5%のシェア獲得を目指す同社は、チョコレート産業のサプライチェーンを静かに変革しようとしている。
インタビュー実施日:2026年3月19日 米国サンフランシスコにて
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アイキャッチ画像はFoovo(佐藤あゆみ)撮影

















































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