アップサイクル

精密発酵カゼインのStanding OvationがシリーズBで約54億円を調達、2026年の米国上市へ

Yvan Chardonnens氏(左)とRomain Chayot氏(右) 出典:Standing Ovation

フランスの精密発酵スタートアップStanding Ovationは先月、シリーズBラウンドで3,420万ドル(約54億円)を調達し、新たな投資家としてDanone Ventures迎えた

同社CEOのYvan Chardonnens氏は、サンフランシスコで開催されたFuture Food-TechFoovoのインタビューに応じ、「当社は現在、乳業産業の廃液や廃棄物を原料として、高付加価値タンパク質であるカゼインを生産できる唯一の企業です。これにより、こうした廃棄物を処理するソリューションを求める皆様と共に、循環型経済の実現を目指しています」と述べた。

酸性乳清を原料にカゼインを生産

出典:Standing Ovation

2020年創業のStanding Ovationは、精密発酵によりカゼインなどの機能性タンパク質を開発している。

精密発酵カゼインを開発する企業にはNew CultureEden BrewThose Vegan CowboysNutropyなどがあるが、Standing Ovationの特徴は、乳業の副産物である酸性乳清を原料として活用する点だ。

ホエイ(乳清)は、牛乳を凝固・ろ過した後に残る液体で、甘い乳清と酸性乳清の2種類に分けられる。

甘い乳清は商用用途がある一方で、酸性乳清は産業用途としての利用が限られている。酪農業界では年間推定1億8,000~1億9,000万トンのホエイが生産されており、酸性乳清の処理には高額な費用がかかるとされ、未活用の酸性乳清を有効活用するソリューションが求められている。

同社は昨年、Bel Groupとの提携を通じてこの副産物からカゼインを工業生産することに成功しており、従来は廃棄されていた資源を価値あるタンパク質へと転換する循環型モデルを構築している。

Chardonnens氏は「Belと提携する以前は、人々にできるだけ最適な形でより多くのタンパク質を提供することが目的でした。現在もそれが最終目標であることに変わりはありませんが、この循環型経済の考え方が、私たちの協業におけるもう一つの重要な柱となっています」と語った。

既存の産業プレイヤーと連携して循環型経済を構築するためには、工場が隣接していることが望ましい。

Standing Ovationは自社工場は持たない戦略で、CDMO(開発・製造受託企業)との連携を通じたスケールアップを進めており、すでにトン単位での生産を実現しているとChardonnens氏は述べた。

同社は、発酵の専門家である欧州味の素食品(Ajinomoto Foods Europe)と提携し、プロセスのさらなる拡大を図っているほか、東欧州にも別のCDMOパートナーを有し、タンパク質の精製工程ではTetra Pakとも提携している。

Chardonnens氏は「当社の周囲には非常に強力な産業ネットワークが形成されています」と語る。

動物・植物の二項対立を超えるタンパク質の位置づけ

同社は、味や食感といった官能面に加え、生理活性など消費者が価値として実感できる「機能性タンパク質」にも重きを置いている。

一方で課題は、こうしたタンパク質を市場でどう言語化するかだという。

動物由来でも植物由来でもない新たな選択肢であるだけに、Belと連携しながら、消費者に受け入れられる表現や価格帯、提案方法、市場での位置づけ方を探っているとChardonnens氏は述べた。

「業界にとっての課題は、動物由来タンパク質か植物由来かという二項対立になっていた点にあります。当社技術は、その両者のあいだにあるギャップを埋めるものであり、そこが最も難しい部分もあります。大手ブランド企業にこの新しいタンパク質を提案する際に、どのような言葉や表現が適切なのか——現在、Belとともにその点に集中的に取り組んでいます」

砂糖と酸性乳清を同一プロセスで処理、柔軟な原料切替を実現

精密発酵カゼインを使用したアイスクリーム 出典:Standing Ovation Linkedin

技術面では、砂糖と酸性乳清の両方を原料とする柔軟なプロセスを採用しており、規制承認でもこのプロセスを申請する予定だ。ヴィーガンを求める顧客には砂糖のみ原料に使用するなど、柔軟な対応が可能だという。

同社技術により、原料に砂糖、酸性乳清を使用した場合で、品質や発酵効率に差はなく、コストや供給条件に応じて原料を切り替えられるという。

用途としては、アイスクリーム、ヨーグルト、チーズなど幅広い乳製品を想定している。特に高タンパク化による食感や粘度の課題を改善できる点が強みだという。

また、消費者の受容性を高めやすいことから、動物性と植物性を組み合わせた「ハイブリッド」製品も重要な導入手段と位置づけている。

Standing Ovationは、まずアメリカ市場でB2B展開を目指しており、2026年の上市を計画している。欧州では欧州食品安全機関(EFSA)への申請を予定しており、2027年後半から2028年の承認取得を見込む。

現在、原料から発酵、下流工程、用途開発に至るまで8つの特許群を保有しており、特許取得の目的として、企業価値の維持、顧客の差別化を確保すること、そして競争優位の確保をChardonnens氏は挙げた。

精密発酵の商用化が進む中、Standing Ovationは乳業との連携を軸に、循環型経済の中に精密発酵タンパク質を位置付けている。循環型経済と機能性の両立というアプローチが、今後の市場形成にどのような影響を与えるかが注目される。

 

インタビュー実施日:2026年3月20日 米国サンフランシスコにて

 

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アイキャッチ画像の出典:Standing Ovation

 

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