オランダの培養肉企業モサミートは、ウシ胎児血清(FBS)を使用せずに脂肪を培養するための無血清培地に関する論文を発表した。
論文は、「さまざまな種の脂肪を培養するための簡素化された無血清の既知組成培地(原語:A simplified and defined serum-free medium for cultivating fat across species)」というタイトルで公表された。
モサミート、無血清培地で牛脂肪細胞を培養するプロトコールを発表
FBSは栄養素と成長因子を豊富に含むことから、細胞培養用の培地に使用されてきた。しかし、動物を犠牲にせず培養肉を作製するためには、その生産プロセスからもFBSの使用を排除する必要があり、モサミートを始め、多くの培養肉企業が無血清培地の使用にシフトしている。
モサミートは2016年より生産プロセスからFBSの除去に取り組み、2019年に培養肉の生産プロセスからFBSを取り除くことに成功した。
昨年1月、同社は生産プロセスからFBS除去を実現した詳細を論文で発表した。今回の論文は昨年の発表を補完するもので、FBSを使用しない培養脂肪に関するものとなる。
脂肪は肉の味、風味、食感に欠かせない要素であり、モサミートは2018年から同社の培養ハンバーガーに培養脂肪を追加することに注力してきた。モサミートによると、培養脂肪を少量追加するだけでも、消費者の感覚的な印象に大きな違いが生じることがわかったという。
「無血清培地は、FBS含有培地よりも分化能が優れている」
今回発表された査読付きの論文(オープンアクセス)では2020年からモサミートが使用している、簡素化されたワンステップのプロトコールで、FBSを使うことなく牛脂を培養するレシピを共有している。牛の細胞で実証されているが、羊や豚など他の種にも適用できるという。
同論文によると、さまざまな培地で脂肪細胞を培養した結果、モサミートが開発した無血清培地は、陽性細胞、総脂質面積の割合の両方において「有意に高い値」を示したという。
論文の冒頭には、研究成果として下記の4点があげられている。
- 無血清培地は、FBS含有培地よりも分化能が優れている。
- 無血清の脂肪作製に必要な誘導因子は、ロシグリタゾンとインスリンの2つのみである。
- 従来の3ステップに代わる、ワンステップのプロトコールは二次元、三次元いずれにも使用できる。
- 簡素化されたプロトコールは複数の種(牛、羊、豚、マウス)に適用できる。
モサミートの筆頭著者であるRada Mitic氏は、「私たちが開発した培地は、血清を含む従来のプロトコールで常に観察されてきた、種分化の相違を克服することができます」とコメントしている。
工業生産に向けたスケールアップにおける重要な成果
血清は、細胞の増殖に必要な成長因子など栄養素の供給源として重要だが、培養肉の生産コストを押し上げる主要要因とされてきた。倫理的な側面からだけでなく、大量生産・生産コスト削減の実現のため、生産プロセスからのFBSの除去が重要視されてきた。
今回発表された成果についてモサミートでCEOを務めるMaarten Bosch氏は、「FBSを使わずに脂肪を培養できることは、工業生産に向けた継続的なスケールアップにおいて重要です」とコメントしている。
Laura Jackisch博士は、「牛脂肪の前駆細胞を分化させることが難しいことは周知の事実でした。この論文でようやく、動物成分を一切使用することなく、牛細胞の脂肪生成に関する堅牢なプロトコールを示すことができました」と述べている。
無血清培地の開発が加速
無血清培地の開発は急速に進んでいる。最近では、世界で初めて培養肉を販売したイート・ジャストの培養肉部門GOOD Meatが、培養肉生産に無血清培地を使用する許可をシンガポール食品庁(SFA)から取得している。
イギリスのスタートアップ企業Multus Biotechnologyは今月約12億円を調達し、細胞農業製品の低コスト化、スケールアップのために、イギリスに世界初となる増殖培地の生産工場を建設することを発表した。
このほか、昨年FDAから培養鶏肉の安全性認可を取得した米Upside Foods、アメリカに培養肉工場を建設中のイスラエル企業Believer Meats、独自のOPTi-OX技術を持つオランダ企業Meatable、韓国のCellMeatなど、培養肉を開発するさまざまな企業が無血清培地を独自に開発している。
国内では、コムギ胚芽を活用し、安価な成長因子を開発する徳島発のNUProteinが今月、シンガポールで培養シーフードを開発するUmami Meatsに向けて、NUProteinの成長因子生産システムを提供するライセンス契約を締結したことを発表した。
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アイキャッチ画像の出典:Mosa Meat