米Mission Barnsが開発した細胞培養による豚脂肪が、アメリカ食品医薬品局(FDA)から「質問なし」のレターを受領した。
GOOD Meat、Upside Foodsに続き、FDAが安全性を認めた3例目の細胞性食品となる。世界で初めて培養脂肪の安全性が認められ、アメリカでは初めて鶏以外の動物種が認められた。
ただし、販売には、アメリカ農務省(USDA)の検査証書と表示認証が必要であり、現時点ではこのプロセスは完了していない。
Mission Barnsによると、残るステップが完了後、同社製品は米スーパーマーケットチェーンのSprouts Farmers Marketで発売されるほか、サンフランシスコにあるイタリアンレストランFiorellaで提供が開始される予定となる。
シンガポールでは昨年、GOOD Meatの培養鶏肉が世界で初めて小売店で販売された。Mission Barnsの製品が上市されれば、シンガポールに続き、アメリカで初めて小売店に導入される細胞性食品となる。
停滞していた米国での認可が一歩前進

出典:Mission Barns
今回のニュースを受け、培養肉のルール形成に取り組む細胞農業研究機構(JACA)代表理事の吉富 愛望 アビガイル氏は、「新トランプ政権発足後、初めてFDAの上市前相談プログラムをクリアした事例である点が特徴的だと思いました」とFoovoに述べた。
さらに、「GOOD Meat社・UPSIDE Foods社の事例以降、同プログラムをクリアする企業がなかなか出ない状況が続き、一部の州では政治的な反対運動も活発化し、新政権の発足に伴い規制当局の顔ぶれが変わる中で、米国市場の今後を気にしていた方も多かったのではないでしょうか」と述べ、GOOD Meatが2023年3月にFDAから安全性を認められて以降、2年たって3例目が出たことを評価している。
細胞性食品の安全性評価の前進—牛・豚・鶏が揃う

出典:Mission Barns
アメリカで、肉や脂肪などの細胞性食品を販売するには、①FDAの市販前協議を完了(安全性審査)、②USDAの表示認証、③USDAの検査証書(GOI)の3ステップをクリアする必要がある。
Mission Barnsはこのうちステップ①を完了したことになる。
コンサルティングファームのATOVAによると、Mission Barnsは残る2ステップを取得するための最終段階にあるという。
先行する2社の事例では、Upside Foods(2022年11月)、GOOD Meat(2023年3月)がFDAの市販前協議を完了してから、最終承認(2023年6月)を得るまでに約半年を要した。
過去の経緯を踏まえると、Mission Barnsも半年前後を要する可能性があるが、トランプ新政権による当局の人事刷新により、後続の2ステップが停滞する可能性も考えられる。
いずれにせよ、世界でこれまで鶏肉、牛肉(アレフ・ファームズ)、ウズラ(Vow)に限られていた培養肉で、新たに豚肉でも安全性が認められた意義は大きい。
吉富氏も、「米国で初めて鶏以外の細胞を培養したものが同プログラムをクリアした点も重要です」とコメントしている。
「他の国・地域の安全性確認事例とは異なり、同プログラムでは企業が提出した資料が原則公開されます。鶏以外の動物種に関する安全性確認事例にアクセスできるようになり、弊機構としては、この進展は非常にありがたく感じます。世界の安全性確認事例として牛・豚・鶏がコンプリートされた点も大きいです」と述べ、今回の承認が今後の食品安全性評価においても新たな資料提供の機会となることを評価した。
Mission Barnsの培養脂肪

出典:Mission Barns
Mission Barnsは、非遺伝子組換えの豚細胞を培養し、植物原料と組み合わせてベーコン、ソーセージやミートボールなどの代替食品に使用する培養豚脂肪を開発した(CCC008 part1 PDF p4)。
細胞は、アメリカ産ヨークシャー種(Yorkshire)豚の腹部皮下脂肪組織から採取した細胞を使用(CCC008 part1 PDF p35)。
同社は、血清を含む培地で接着細胞を培養し、その後、数世代にわたって血清を含まない培地で選択培養することで、血清なしの環境に適用し、血清なしで増殖する細胞株を樹立した(Scientific Memo p2,6)。現在の製品は植物性の栄養成分で培養されている。
製造プロセスでは、細胞を培地に入れ、十分に増殖させた後、専用の食品グレード試薬を培地に加えて、脂肪滴の形成を促進する。脂肪が蓄積された後、バイオリアクターから細胞を取り出し、複数回洗浄する。その後、品質検査を経て2-8度に温度管理された保管庫で保存する(CCC008 part1 PDF p12)。
FDAは、Mission Barnsが提出した培養豚脂肪に関する情報に基づき、「食品に害のある物質や微生物を含む食品を生み出すと結論づける根拠は見つかなかった」と回答し、同社の製造プロセスで生産される培養豚細胞を含む食品が、他の方法で生産された食品と同等に安全であることを結論付けた。

出典:Mission Barns
Mission Barnsは、2018年にEitan Fischer氏によって設立された。2020年にはサンフランシスコで細胞培養ベーコンの試食会を実施。
2021年10月には中国の植物肉企業Heroteinとの提携を発表、同年11月には食肉加工企業Silva Sausageと提携し、最初のスケールアップ生産を完了した。二社は複数年契約を交わしており、Mission Barnsが最終承認を得た後、製品の発売でも協力する可能性がある。昨年8月には生産プロセスの効率を大幅に向上できるという独自のバイオリアクターを発表した。
プレスリリースによると、同社の主力製品は、「イタリアンスタイルの培養ミートボール(Italian Style Cultivated Meatballs)」と「アップルウッドスモーク培養ベーコン(Applewood Smoked Cultivated Bacon)」とあり、ミートボールとベーコンから製品を市場投入していくと思われる。
Fischer氏は、「何よりもまず、消費者は全く美味しくない食品は食べません。それが、私たちが脂肪ファーストのアプローチを採用した理由です」とプレスリリースで述べている。
培養肉販売のこれまでの流れ

Vowの培養ウズラ肉 Foovo(佐藤)撮影(2024年4月)
Mission BarnsのFDA認可は、細胞性食品の市場展開における重要なステップの一つとなる。最後に、培養肉が最初に上市されてから、現在にいたるまでの流れを振り返ってみたい。
- 2020年12月-GOOD Meatがシンガポールで販売認可を取得、レストランで培養鶏肉を販売(シンガポール初販売)
- 2021年4月-GOOD Meatが世界初となる培養肉のデリバリーサービスを開始
- 2021年9月-Esco AsterがCDMOとして培養肉の製造承認をシンガポールで取得
- 2022年3月-GOOD Meatが人気屋台Loo’s Hainanese Curry Riceと提携し、4シンガポールドル(当時約360円)で提供。
- 2023年1月-GOOD MeatがHuber’s Butcheryで提供開始
- 2023年6月-GOOD Meat、UPSIDE Foodsがアメリカで最終承認を取得
- 2023年7月-Upside Foods、GOOD Meatがアメリカで培養肉を発売(アメリカ初販売)
- 2024年1月-アレフ・ファームズがイスラエルで培養牛肉の認可を取得
- 2024年2月-韓国が培養肉申請の受付を開始
- 2024年4月-Vowがシンガポールで培養肉の販売認可を取得、レストランで発売
- 2024年5月-GOOD Meatがシンガポールの小売店で販売開始
- 2024年7月―英Meatlyがイギリスで培養ペットフードの販売認可を取得
- 2024年7月-EUで初の培養肉申請提出
- 2024年11月-Vowが香港で培養肉の販売認可を取得
- 2025年2月-英Meatlyが世界初の培養ペットフードを発売
培養脂肪の安全性がFDAにより初めて認められたことは、培養脂肪を開発する他社にとってもプラスの材料となる。
培養脂肪は培養肉と比べて、少量の使用でも植物肉の味や食感を向上させると期待される。また、肉製品の一部として混合されるため、培養肉のような成形化の課題がなく、市場投入のしやすさやコスト面でも優位性があると考えられる。こうした点が、Mission Barnsが初期からスーパーマーケットの製品展開を視野にいれる要因の一つだとFoovoはみている。販売に必要な残る2ステップがいつ完了するのか、今後の動向に注目したい。
参考記事(プレスリリース)
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アイキャッチ画像の出典:Mission Barns