培養肉を使った世界初の食品デリバリーが始まる。
代替卵・培養肉をてがける米スタートアップ企業イート・ジャスト(Eat Just)は、デリバリー企業フードパンダ(foodpanda)と提携し、世界初となる培養肉の宅配サービスを期間限定で提供することを発表した。
世界初!培養肉料理のデリバリー
イート・ジャストといえば、世界に先駆けてシンガポールで培養肉の販売許可を取得した企業。
同社の培養肉は2020年12月にGOOD Meatというブランドでシンガポールのレストラン1880で販売された。
このGOOD Meatを使った料理のデリバリーが、シンガポールで今月22日より期間限定で提供される。
消費者はフードパンダのアプリを通じて、GOOD Meatの培養鶏肉を使った料理の宅配注文ができる。
注目できる料理は、ジャスミン米を使ったチキンカツカレー、チンゲン菜・スイートチリを添えたココナッツチキンライス、ケール・植物性シーザードレッシングを使ったチキンシーザーサラダの3つ。
これらの料理は、世界で最初に培養肉を販売したレストラン1880で用意される。
1食あたりの販売価格は約15ドル(配送料は除く)。
イート・ジャストとフードパンダは、今後数ヵ月以内にシンガポールのほかのレストランとも協力して料理のデリバリーをしたいとしている。今年5月中旬からは、JWマリオット・ホテル・シンガポール・サウスビーチもこれに加わる予定。
今回発表された宅配サービスは、培養肉を使った料理を消費者が自宅で手軽に食べられるようになるという点で画期的なニュースといえる。
現在、培養肉に取り組む企業は増えており、今年になってからの投資熱は加速している。
しかし、イスラエルのSuperMeatが培養肉の試食に特化したレストランを運営するほか、培養肉が消費者に「販売」された事例はイート・ジャストの培養鶏肉GOOD Meatのみとなる。
気候危機・食糧危機の解決策となる培養肉
2050年には世界人口が100億人に達すると予想されるなか、高まる食料供給の需要を満たす新たな食料供給手段として、世界中のスタートアップが培養肉の開発にしのぎをけずっている。
培養肉は、生きた動物から幹細胞を採取し、細胞をバイオリアクターで成長させてつくられる。
家畜そのものの飼育が不要となるため、家畜を飼育するために広大な土地や飼育施設、それに伴う水、飼料などは必要ない。
培養肉が商品化されれば、これまでの食肉生産に不可欠であった広大な土地、大量の水、抗生物質が必要でなくなり、温室効果ガスの排出量を減らせるほか、動物に由来する感染症の発生を防ぐことができる。
畜産肉と培養肉の違いをわかりやすく例えると、家畜由来の肉は土で育った野菜(土耕野菜)、培養肉は水で育った野菜(水耕栽培)といえる。
野菜を土で育てるか、水で育てるかの違いが、家畜を殺して肉にするか、細胞をバイオリアクターで培養して肉にするかにあてはまる。
現在は、コスト・大量生産という課題があるものの、昨今は培養肉の生産コストを削減する技術に取り組む企業、大量生産を可能とする技術に取り組む企業にも投資が集まっている。
現にイート・ジャストは先月、約219億円という巨額の資金調達に成功している。この時のプレスリリースでは、培養肉の生産コストを数年以内に「劇的に削減」するとしている。
このほか、Meatable(約50億円)、モサミート(約10億円)、Mirai Foods(約4.8億円)など培養肉に取り組む企業のほか、脂肪を開発するHoxton Farms(約3.9億円)やMission Barns(約26億円)、培地・成長因子を開発するCellMEAT(約4.7億円)やFuture Fields(約2.3億円)など、今年になってから培養肉の大衆化に取り組む各企業に投資が集中している。
5年以内には動物肉と同等価格になるとみる見方もあれば、2032年までに味、食感、価格の3点で動物性タンパク質と同等レベルに達するという見方もある。
培養肉で2度目の快挙を成し遂げたイート・ジャスト
培養肉がシンガポールを超えて販売されるには、規制面のクリア・量産に加えコストダウンを実現しなければならない。
しかし、イスラエルのFuture Meatのように大幅なコストダウンに成功している事例もあり、昨今の投資動向からも、培養肉の普及には追い風が吹いている。
イート・ジャストの培養鶏肉GOOD Meatを食べた人への調査によると、試食した人の70%はこれまでの鶏肉と同等かそれ以上の味がしたと回答、90%がこれまでの鶏肉を止め、培養鶏肉に置き換えると回答している。
イート・ジャストは世界で最初に培養肉を販売するための承認を取得した企業になっただけでなく、培養肉料理を自宅に届ける最初の培養肉デリバリーを実現した企業にもなった。
これは培養肉に対する「一般の認識と熱意を高めるうえで確実な前進」であり、培養肉を幅広く普及させるうえで「大きな飛躍」であることは間違いない。
日本の三菱商事と提携している培養肉企業アレフ・ファームズは、来年、アジアで培養肉を販売したいとしており、日本がリストの上位にいることを明かしている。
1年後には、まだニュースを見る側にいるわたしたちが、培養肉を実食できるようになっているかもしれない。
参考記事
Singapore: Eat Just and foodpanda Partner for Cultured Meat Home Delivery
Eat Just Launches World’s First Cultured Meat Home Delivery With Foodpanda Singapore
Eat Just and Foodpanda Partner on World’s First Home Delivery of Cultured Meat
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アイキャッチ画像の出典:Eat Just