シンガポール・アメリカを拠点とする精密発酵企業TurtleTreeは23日、精密発酵で生成したウシラクトフェリンLF+について、世界で初めてアメリカのGRAS自己認証を取得したことを発表した。
これにより、LF+を食品や飲料に安全に使用できることが確認され、TurtleTreeがアメリカで商用化する道が開かれたことになる。
この発表は、今年3月にサンフランシスコで開催された試食会でのウシラクトフェリン発表に続くニュースとなる。同社は既存のラクトフェリン市場だけでなく、350億ドルと想定される植物ミルク市場におけるギャップを埋めようとしている。
精密発酵ラクトフェリンで利益を出す
GRASとは、Generally Recognized As Safe(一般に安全とみなされている)の略語で、米国における食品安全に関する独自の認証制度をさす。企業はGRAS自己認証を行うことで、対象物質をアメリカで販売できるようになる。
今回GRAS自己認証を取得したことで、TurtleTreeは精密発酵ラクトフェリンをアメリカで販売できるようになった。
精密発酵による食品開発では米パーフェクトデイ、米The Every Company、イスラエル企業Remilk、Imagindairyなどがアメリカで販売認可を取得しているが、ラクトフェリンでGRAS自己認証を取得したのはTurtleTreeが初となる。
*ImagindairyはGRAS自己認証のみ。パーフェクトデイ、The Every Company、RemikはGRAS認証を取得済み(GRAS Notice No. GRN 000863、GRAS Notice 1104、GRAS Notice No. GRN 001056)(11月24日に追記)。GRAS制度については日本細胞農業協会の記事が参考になる。
同社は今年第4四半期のアメリカでの発売に続き、今後は自社の「革新的技術と生産方法」を活用して、LF+販売により利益を出す見込みであると述べている。
同社共同創業者兼CEO(最高経営責任者)のFengru Lin氏は、「ウシラクトフェリンは始まりに過ぎません。今日の成果は、当社のより広範な商品化戦略を実現し、牛乳の最も有力な成分へのアクセスを強化する上で重要なステップであると考えています」と述べている。
精密発酵ラクトフェリンの可能性
TurtleTreeによると、ラクトフェリンは現在小売で1kgあたり750~1500ドルで販売されているが、その需要は供給を大幅に上回っている。1kgの精製ラクトフェリンを生成するには10,000Lの牛乳が必要になるという。
その限られた供給のため、ラクトフェリンは粉ミルクなど限られた重要な食品に使用が限定されており、他の用途にはほとんど使用されていないと同社は指摘する。
精密発酵によるラクトフェリンは、粉ミルクだけでなく、プロテイン粉末、機能性ドリンク、高齢者向けの食事、栄養補給を目的とした成人向けサプリメント、さらには植物性乳製品など幅広い用途が想定される。
TurtleTreeのGRAS自己認証は、精密発酵でラクトフェリンを開発する他社の研究開発、上市を後押しする動きとなるだろう。
米Helainaもラクトフェリンを開発しているが、ウシではなくヒトラクトフェリンとなる。Helainaは今年7月、シカゴで開催されたIFT FIRSTのピッチコンテストで、ヒトラクトフェリンを開発したことを発表した。
ポルトガル企業PFx Biotechの共同創業者兼CEOであるAli Osman博士は最近Foovoによるインタビュー時に、精密発酵によりラクトフェリンやオステオポンチンなど人乳タンパク質に焦点をあてていると述べた。
TurtleTreeも以前の報道でヒトラクトフェリンを開発していることに言及しているため、今後はウシラクトフェリンに続き、ヒトラクトフェリンでも上市を狙っている可能性も考えられる。
参考記事
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アイキャッチ画像の出典:TurtleTree