アップサイクル

金沢大学、廃糖蜜を活用した精密発酵で高純度レチナール生産に成功

野生株、リコピン、β-カロテン、レチナール生産株の色(出典:金沢大学)

金沢大学は3月10日、サトウキビや甜菜などから砂糖を精製する際に生じる農業副産物・廃糖蜜(モラセス)を原料に、微生物を用いる精密発酵技術で高純度のレチナールを生産する技術開発に成功したと発表した

研究は静岡県立大学との共同で進められ、成果は2026年2月22日に国際学術誌『Bioresource Technology』オンライン版に「Production of pure all-trans retinal from agricultural byproducts by metabolically engineered Corynebacterium glutamicum using two-phase cultivation」というタイトルで掲載された。

レチナールはビタミンA化合物の一種で、近年はスキンケア分野で注目を集めている。

ビタミンA化合物の総称であるレチノイドには、レチナールレチノールなどが含まれる。

レチノールはエイジングケア用途で広く利用されているが、レチナールはより低容量で高い効果が得られることが報告されている。一方で、現在流通しているレチノイドは、石油由来原料を用いた化学合成で製造されるケースが中心であり、持続可能性の面で課題が指摘されていた。

こうしたなか、研究チームは農業副産物である廃糖蜜を活用し、より環境に配慮したレチナール生産の方法を示した。

プレスリリースによると、大腸菌や酵母を用いたレチナールのバイオ生産はこれまでも報告されてきたが、他のレチノイドを伴わずにレチナールのみを選択的に生産することは難しかった。本研究は、バイオものづくりにおけるグルコース依存石油由来原料への依存を低減しつつ、高純度なレチナール生産を実現できる可能性を示した。

製糖産業の副産物である糖蜜を活用していることから、バイオものづくりにおける代替炭素源としての可能性を示す成果ともいえる。

Good Food Institute(GFI)の2025年レポートでも、発酵生産では原料がしばしば最大の変動費となり、糖などの原料価格がコスト構造を左右すると整理されている。そうしたなか、副産物の活用は、コストと持続可能性の両面から注目される。

研究では、アミノ酸の工業生産菌として知られるコリネ型細菌Corynebacterium glutamicum)を代謝改変し、リコピンからβ-カロテンを経てレチナールを合成する経路を構築した。

出典:Production of pure all-trans retinal from agricultural byproducts by metabolically engineered Corynebacterium glutamicum using two-phase cultivation

論文によると、脂溶性で酸化しやすいレチナールを培養中に有機相へ抽出・安定化するため、二相培養法を導入した。

最適温度は21℃で、廃糖蜜を炭素源かつビタミン源として使ったフラスコ培養では30.7 mg/L2.5Lバイオリアクターでは104.9 mg/Lを達成した。レチノールやレチノイン酸など他のレチノイド化合物は検出されず、レチナールを高純度で生産できることが示された。

出典:Production of pure all-trans retinal from agricultural byproducts by metabolically engineered Corynebacterium glutamicum using two-phase cultivation

金沢大学は今後、生産性のさらなる向上と精製工程の確立を進め、環境配慮型スキンケア原料としての社会実装を目指すとしている。

食品用途の研究ではないものの、農業副産物のアップサイクル高付加価値分子の選択生産、そしてホルムズ海峡封鎖により原油調達不安が浮き彫りになったなかでの石油由来原料への依存低減という点で、精密発酵の可能性を示す研究成果といえる。

特に、食品分野では規制や価格競争のハードルが高いなか、周辺市場で先に社会実装を進める戦略の現実味を示す事例として注目される。

 

※本記事は、プレスリリースおよび論文をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

フードテックの国内外ニュースを週1回まとめてお届けしております。
メールマガジン登録はこちらから

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:金沢大学

 

関連記事

  1. 二酸化炭素を使用して代替脂肪を開発するスウェーデンのGreen-…
  2. 味の素、ソレイン使用のコーヒー飲料をシンガポールで限定販売|Pr…
  3. 農作物の残り物を有用成分にアップサイクルするComet Bioが…
  4. 食品製造で発生する廃糖水で菌糸体粉末を作るHyfé Foodsが…
  5. AIで副産物を高付加価値化|スペインのMOA Foodtechが…
  6. オランダのNoPalm Ingredients、酵母由来油脂のデ…
  7. 多様な植物から葉タンパク質を抽出するThe Leaf Prote…
  8. 食肉加工大手JBS、ブラジルにバイオテック拠点を開設|機能性・代…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

おすすめ記事

培養脂肪の英Hoxton Farmsが約32億円を調達、ロンドン市内にパイロット工場建設へ

培養脂肪を開発する英Hoxton Farms(ホクストン・ファームズ)はシリーズ…

全自動のパン製造ロボットBreadBot、昨年より米スーパーに本格導入

Wilkinson Baking Companyが開発したパンを自動製造するロボ…

オーストリアのRevo Foods、世界最大の食品向け3Dプリンティング工場を開設|新製品のマイコプロテイン由来サーモンを発売

3Dプリンターで代替シーフードを開発するオーストリア企業Revo Foodsは1…

資金調達が相次ぐ代替シーフード:スイスのスタートアップCatchfreeの調達とグローバル連鎖

植物性の代替シーフードを開発するスイス企業Catchfreeは先月、シードラウン…

スーパーミート、来年アメリカに培養肉工場建設を計画

細胞培養による培養肉を開発するイスラエルのスーパーミートは、2023年後半にアメ…

TiNDLE Foodsが米スーパーで代替鶏肉製品を発売、来年には全米の小売店で発売へ

シンガポールの代替肉企業TiNDLE Foods(旧Next Gen Foods…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

細胞性食品(細胞培養食品)レポート・予約注文開始

最新記事

精密発酵・定期動向レポート発売のお知らせ

代替カカオレポート・好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

会員サービスFoovo Deepのご案内

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

▶メールマガジン登録はこちらから

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

Foovoセミナー(年3回開催)↓

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP