代替タンパク質の普及を推進する非営利団体Good Food Institute(GFI)は、2021年に植物肉、植物性乳製品などのプラントベース食品や培養肉、発酵タンパク質など代替タンパク質企業に50億ドルの投資が集まったことを報告した。
この数字は2020年(31億ドル)の約1.6倍、2019年(10億ドル)の5倍となる。代替タンパク質企業は2011年以降、総額で約111億ドルを調達しているが、この73%(80億ドル)はコロナウイルスの感染が拡大した2020年以降に調達されている。
2021年に代替タンパク質企業に集まった投資額50億ドルは、2011年以降に集まった総額の半分近くを占めていることからも、気候危機を緩和し、次のパンデミックを防ぐための世界的な取り組みとして、代替タンパク質に高い関心が持続的に集まっていることがうかがえる。
培養肉・培養魚⇒過去最高かつ2020年の3倍以上
培養肉企業は2021年に14億ドルの出資を受けた。1年間で集まった投資額としては過去最高であり、2020年(約4億ドル)の3倍以上となる。
2016年以降、培養肉には19億ドルが集まっているが、この70%以上が2021年だけで実現されていることは注目に値する。特に2021年は1回の調達額が100億円単位となる資金調達が目立った。
- Future Meat(フューチャーミート)のシリーズBでの3億4700万ドル(約394億円)
- アレフ・ファームズのシリーズBでの1億500万ドル(約116億円)
- イート・ジャスト培養肉部門GOOD Meatの2億6700万ドル(約305億円)
※調達額の日本円は当時のレートで換算
培養肉企業がシリーズBラウンドへ初めて進んだのは2020年だが、それ以降、Future Meat、アレフ・ファームズ、モサミート、Upside Foods、などがシリーズBラウンドへ進んでいる。最近では培養魚のWildTypeが培養シーフード企業として過去最大規模の1億ドル(約114億円)を調達している。
発酵タンパク質⇒2020年の約3倍
発酵技術で代替タンパク質を開発する企業は、2021年に17億ドルの出資を受けた。
これは2020年の約6億ドルの約3倍となる。培養肉と同様、2021年は1回の調達額が100億円単位となる資金調達が目立ち、新たに市販化を実現する企業が複数登場した。
- パーフェクトデイのシリーズDでの3億5000万ドル(約390億円)
- Nature’s FyndのシリーズCでの3億5000万ドル(約385億円)
- Motif FoodworksのシリーズBでの2億2600万ドル(約249億円)
- The EVERY CompanyのシリーズCでの1億7500万ドル(約198億円)
※調達額の日本円は当時のレートで換算
2013年以降、発酵タンパク質には28億ドルが集まっているが、この60%が2021年だけで調達されており、培養肉同様、発酵タンパク質にも高い関心が寄せられている。
植物性の肉、卵、乳製品⇒前年と同等
2021年にプラントベース食品企業に集まった出資額は、2020年(21億ドル)とほぼ横ばいの19億ドルとなった。
植物性代替食品が伸び悩んだ背景には、培養肉、発酵タンパク質に対する関心の高さがあげられる。
植物性代替食品と比べ、培養肉、発酵タンパク質は上市を実現していない企業が大部分を占める。これらの企業の多くは現時点で収益化していないが、将来的には莫大な利益をもたらしうること、地球環境や食糧危機の観点から、さらなる持続可能性と生産効率性を期待できることが、この2分野への投資成長率が植物性代替食品を上回った背景にあると考えられる。
といっても、植物性代替食品市場への関心も依然として高く、2021年にも下記にあげる大型の資金調達が実施された。
- インポッシブルフーズの5億ドル(約560億円)
- NotCoのシリーズDでの2億3500万ドル(約259億円)
- v2foodのシリーズBでの7200万豪ドル(約58億円)
※調達額の日本円は当時のレートで換算
特にシンガポールのNext Gen Foodsは2021年にシードラウンドで計3000万ドル(約35億円)を調達するなど、シードラウンドとしては大型の調達を実施している。
2021年だけで過去11年に集まった投資額の半分近くが1年で集まったことは、代替タンパク質投資が急速に成長していること、代替タンパク質に対する関心の高さを表している。
しかし、気候危機に対処するソリューションを提供する初期段階にある気候テック企業に集まった投資額は、2021年だけで470億ドルにのぼる。つまり、地球温暖化の喫緊の課題として代替タンパク質が注目されているにも関わらず、気候危機対策全体でみると、ごく一部しか代替タンパク質に投資されていないこととなる。
この点について、代替タンパク質は気候危機のソリューションとして「過少投資されている」とGFIは指摘している。
GFIの投資スペシャリストのSharyn Murray氏は次のように述べ、気候危機ソリューションとして今後一層の投資が代替タンパク質に流れ込む可能性を示唆している。
「気候リスクが投資リスクであると認識する投資家が増えるにつれ、代替タンパク質は、より安全で、カーボンニュートラルな食料システムに近づける拡大可能なソリューションを提供してくれます。
食糧問題の解決なく気候リスクを管理することは不可能です。農業と代替タンパク質は、食糧問題を解決する手段を私たちに提供してくれます」
2022年1-2月も大型調達が続く
2022年になってからも、下記のとおり代替タンパク質への出資は続いている。2022年は前年を上回る可能性も考えられ、特に発酵タンパク質のなかでも精密発酵に対する出資額の増加が予想される。
- イスラエル・Redefine Meat(植物肉):1億3500万ドル(約155億円)
- イスラエル・Remilk(精密発酵):1億2000万ドル(約139億円)
- アメリカ・Wildtype(培養肉):1億ドル(約114億円)
- 中国・Starfield(植物肉):1億ドル(約114億円)
- アメリカ・Finless Foods(培養肉):3400万ドル(約40億円)
- オーストラリア・Change Foods(精密発酵):1200万ドル(約13億円)
- フィンランド・ソーラーフーズ(バイオマス発酵):1000万ユーロ(約12億8000万円)
参考記事
Record $5 billion invested in alt proteins in 2021, surging 60 percent since 2020
関連記事
アイキャッチ画像の出典:SuperMeat