フランスの培養肉企業Vital Meatは今月、英国食品基準局(Food Standards Agency,FSA)とスコットランド食品基準庁(Food Standards Scotland,FSS)に新規食品の申請書類を提出したことを発表した。
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仏培養肉のVital Meatがイギリスで新規食品の承認申請を実施
イギリスで培養肉の申請を行ったのは、アレフ・ファームズに続きVital Meatが2社目。
Vital Meatは昨年12月、シンガポール食品庁(SFA)に新規食品の申請書類を提出しており、シンガポールに続き、イギリスでも正式に申請を行ったこととなる。
Vital Meatは現在、レシピを開発するためにパートナー企業を探している。Green queenの報道によると、Vital Meatはイギリスでは2025年の販売を目指している。
イギリス政府は昨年12月、培養肉・発酵産業を含むエコシステムの推進に必要な資金を提供する工学的生物学の国家ビジョン「National Vision for Engineering Biology」を発表した。
今後10年間で総額20億ポンド(約3800億円)を工学的生物学に投資するとしている。イギリス政府は国家ビジョンの中で、同国の培養肉産業が規制障壁のために抑圧されるリスクを認識していることに言及し、業界の障壁撤廃に向けて規制機関と選択肢を検討していると述べていた(ビジョンp34-35)。
FSAは今年3月、培養肉や精密発酵などの食品を市場投入する方法を近代化し、不必要な遅延をなくすための計画に合意。今後数ヵ月以内に新規食品規制など関連法規の改正を予定している。
こうした動きをふまえると、「不透明な」規制枠組みと言われるEUではなく、培養肉産業を育成しようという意識の高いイギリスで承認申請を行う企業は増えていくことが予想される。
培養肉の認可・販売状況
培養肉をめぐる認可の状況は次の画像の通り。
認可が下りている3ヶ国での販売状況・企業をまとめると次のようになる。
第1の認可国:シンガポール
- 2024年5月現在の販売:あり
GOOD Meat:Huber’s Butcheryの冷凍コーナーで1袋(120g)7.2シンガポールドルで販売中
Vow:5月14日までレストランTippling Clubで提供していた。次のローンチも近く実施されるとみられる。
★なお、培養肉の初販売から現在にいたるまでの認可・販売の履歴はこちらの記事に詳細をまとめている。
第2の認可国:アメリカ
販売実績のある企業:GOOD Meat・Upside Foods
- 2024年5月現在の販売:なし
2023年6月に販売が認められ、7月から提携レストランで提供したが、二社とも現在は販売は確認できていない。
第3の認可国:イスラエル
販売実績のある企業:なし
- 2024年5月現在の販売:なし
アレフ・ファームズが培養牛肉について2024年1月に販売認可を取得したが、まだ販売は実現していない。イスラエルは培養牛肉の販売を認めた最初の国となる。
未認可国・地域における培養肉の申請状況
シンガポール、アメリカではすでに多くの企業が申請済み、または申請プロセスを進行中であると予想される。
以下ではこの二ヵ国以外の国における申請状況をわかる範囲でまとめた。
欧州
EFSA(欧州食品安全機関)
- The Cultivated B(2023年9月に第1段階となる事前提出プロセスを正式に開始)
スイス
- アレフ・ファームズ(2023年7月に提出)
スイスの培養肉企業ではMirai Foodsが確認されている。スイスの小売大手Migrosは2019年にアレフ・ファームズに出資しており、スイス当局への申請ではアレフに協力した。Migrosは以前より、スイスが培養肉開発における欧州への玄関になると述べており、アレフだけでなく、イスラエルのスーパーミーとも提携している。
イギリス
- アレフ・ファームズ(2023年8月に提出)
- Vital Meat(今月)
イギリスではIvy Farm、Uncommon、3D Bio-Tissues、培養ペットフードを開発するMeatlyなどの培養肉企業が確認されている。
Ivy Farmは今月、フィンランド企業Synbio Powerlabsとスケールアップで提携した。2025年初頭に稼働予定の新施設は、培養肉、精密発酵、バイオマス発酵などのスタートアップの生産拡大を支援することを目的としており、Ivy Farmはこの提携を通じ10,000Lのスケールアップを予定している。Ivy Farmは今月、アイスランドで北欧初の培養牛肉の試食会を開催した。
欧州以外
韓国
- CellMeat(申請時期は不明)
韓国にはSimple Planet、CellMeat、SpaceF、TissenBioFarmなどの培養肉企業が確認されている。Simple Planetは今月、韓国政府がフードテック産業を促進するために立ち上げた国家プロジェクトの参画企業に選出された。
韓国では今年2月、細胞培養由来原料を食品として認めるための手続きが明確化され、申請は有料ではあるものの、スタートアップ企業に承認申請の道が開かれた。今月には細胞供給において特例を認める培養肉特区が設置され、韓国での培養肉エコシステムを先制的に構築しようとしている。
こうした動きがみられるなか、先月の時点でCellMeatが韓国当局に申請済みであることが判明しており、申請済み企業はCellMeatに限られない可能性がある。
オーストラリア・ニュージーランド
- Vow(2023年1月に提出)
オーストラリアではVow、Magic Valleyの二社の培養肉が確認されており、Vowは先月、世界で4社目に販売認可を取得した企業となった。
培養羊肉や豚肉を開発するMagic Valleyもオーストラリア・ニュージーランド食品基準機関(FSANZ)と協議を続けている。同社は先月培養豚肉の試食会を開催した。
参考記事
Cultivated Meat: Approvals and Prohibitions Since Singapore’s Pioneering Step in 2020
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アイキャッチ画像の出典:Vital Meat