フードテック

2025年のフードテックを振り返る:国内の細胞性食品が前進、精密発酵は市場投入拡大、日本政府もフードテックを重点分野に

今年初開催された日本培養食料学会大会 Foovo(佐藤)撮影

 

こんにちは。Foovoを運営している佐藤あゆみです。

今回は、2025年のフードテック業界の主なトピックを振り返りつつ、Foovoの活動を総括してみたいと思います。


細胞性食品

2025年の細胞性食品は、国内では前進、海外では複数の閉鎖事例がみられた1年でした。

まず、国内では前向きなニュースが多く見られました。2月に第1回調査部会が開催され、細胞性食品のガイドラインに向けた議論がスタートしました。「細胞の調達」「生産工程」「食品加工」における論点整理や、適用範囲、呼称、安全性確保の手続きなどについて議論が進んでいます(下記記事1本目)。

3月にはラスベガスで開催されていたCultured Meat Symposiumの日本版が都内で開催されました。とりわけ、細胞性食品に特化した初の学会(日本培養食料学会大会)が8月に開催されたことは、今年の一大イベントといえるでしょう。バイオジャパンなどの展示会では複数の細胞性食品の試作品が展示され、万博で培養肉が展示されたことも記憶に新しい出来事です。

Foovo(佐藤)撮影

研究面でも進展がありました。東京大学は内部が空洞になった中空糸を活用し、厚みのある約11グラムの細胞性鶏肉の生成に成功。培養肉の味に関与する遊離アミノ酸についても研究成果を発表しました。また、北里大学は細胞性ウナギが電気刺激に対して動くことを報告しました。

11月には国内外の専門家が集う国際会議が東京で開催されたほか、関係者を対象とした官能評価会が3回開催されるなど、盛り上がりを感じる一年となりました。Foovoでも国内スタートアップ各社の動向を追いました(3本目、4本目、5本目)

世界に目を向けると、サーモンと豚脂肪で世界初の販売が実現するなど、市場に出回る細胞性食品の種類が増えたのが特徴です。アメリカでは細胞性豚脂肪の小売販売が実現しました。さらに、オーストラリア・ニュージーランドでも細胞性ウズラが解禁され、欧州企業が初めてシンガポールで販売認可を取得しました。

一方で、業界を牽引してきた複数のスタートアップ(Believer Meats、Meatable)が事業を終了する動きもありました。

 

培養肉など細胞性食品のガイドライン議論が国内で進展──昨年11月の検討開始から制度設計の骨格が見え始める【国際会議レポート】
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細胞性食品セミナー動画・資料【2025年11月開催】
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精密発酵

精密発酵は何と言っても、市場投入の拡大が大きなトピックです。

米The Every Companyの精密発酵卵白を使用した製品の取扱いが全米のウォルマートで開始され、ヒトラクトフェリンのHelainaも順調に上市を進めています。ヘム・乳タンパク質が中心だった市場投入の範囲が、ラクトフェリンでは初、卵白ではさらに拡大をみせました。

イスラエルでもついに市場が開かれ、すでに同国全土で精密発酵乳タンパク質が展開されています。精密発酵食品全体の販売状況については、下記5本目・6本目に詳しくまとめています。

出典:The Every Company

精密発酵カゼインは今年も上市が確認されなかった一方で、オーストラリア・ニュージーランドで精密発酵カゼインの初申請もみられました。オランダでは精密発酵・バイオマス発酵の承認前試食が可能になりました。

規制が前進する地域もある中、EUでは企業によって異なる動きが見え始めています(6本目)。

気がかりなのは、The Every CompanyとOnego Bioの間で続いている紛争です。これまでも、訴訟が事業終了に少なからず影響したとみられる事例があることをふまえると、二社については、穏便な形で収束することを願っています。

 

米The EVERY Companyが米国スーパーマーケットで展開を開始、約84億円を調達|精密発酵卵白で初の大規模な小売展開
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デンマークのChromologicsが約12億円を調達、赤色3号撤回で精密発酵着色料の商用化が現実味

 

バイオマス発酵

6月に東京で開催したFoovoイベントでは、国内外3社のマイコプロテイン企業に登壇いただきました。その1社である麹ラボは同月、都内でマイコプロテインの試食会を参加し、私も参加しました(下記1本目)。

麹ラボのマイコプロテインを使用した試作料理 Foovo(佐藤)撮影

海外では、EUでThe Protein Breweryのマイコプロテインの安全性が認められ、最終プロセスに進んでいます。EUの新規食品制度は1997年5月15日以前にEU域内で食経験がないものを対象としているため、1985年から販売が開始されている英Quornのマイコプロテインは原則として例外となります。そのため、The Protein Breweryが承認されれば、マイコプロテインとして初の事例となります(2本目)。

中国でも初のマイコプロテイン認可がありました。特に米国のThe Better Meat Co.が大型調達に成功し、いよいよマイコプロテインのスケールアップをする段階に入りつつあります。2026年には、これまでの限定的な供給から提供範囲を拡大できるかどうかに注目です。

また、水素細菌を活用したソーラーフーズのソレイン使用の製品がシンガポールで複数登場し、2026年にはアメリカ市場での展開も予定されています。

 

麹ラボが都内でマイコプロテイン試食会を初開催|代替肉にもソースにも──麹菌体が秘める応用力|試食レポート
The Protein Breweryのマイコプロテイン、EU新規食品審査の第一関門を通過|EFSAが安全性を認める
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代替カカオ・コーヒー

カカオショックの影響を受け、代替カカオへの注目も高まりました。4月には国内外の動向をまとめた代替カカオセミナーを開催し、多くの方に参加いただき、ありがとうございました(下記1本目)。2026年には、この分野に特化したレポートを発行します(2本目)。

Foovo(佐藤)撮影 2025年11月26日都内ナチュラルローソンにて

国内でもさまざまな代替カカオ製品が登場しました。たとえば、あじかんのゴボーチェは今年5月に都内ナチュラルローソンでの取り扱いを確認して以降、現在も陳列が継続されています。

また代替コーヒーについては、米Atomo Coffeeの代替コーヒーを渋谷のカフェで試すことができました(3本目)。

 

代替カカオ・ココアバターセミナー動画・資料【2025年4月開催】
【2026年】代替カカオレポート・予約注文開始のお知らせ
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国内全般

国内のフードテック全般では、日本成長戦略本部が立ち上がり、17の戦略分野の1つにフードテックが指定されました。第2回会合では、フードテックワーキンググループ(WG)が新設され、植物工場や陸上養殖、食品機械、新規食品などの4ユニットで検討を進めることが示されました。来年夏に成長戦略がとりまとめられる予定です(下記1・2本目)。

10月にはSKS Japanを取材しました。

SKS Japanにて Foovo(佐藤あゆみ)撮影

今年は代替カカオからマイコプロテイン、酵母ミルク、代替卵、植物性アイスクリームなど、国内のさまざまな製品を試食しました。中でも特に印象深かったのが、調理ロボットが炒めたチャーハンです。コンビニに導入された調理ロボットが炒めた炒飯を試したのですが、人が作ったものと変わらず、その再現性に驚きました(4本目)。

 

日本政府、フードテックを国家戦略分野に指定|官民連携で供給力を抜本的強化
政府、フードテックWGを設置  17の戦略分野で成長戦略の検討体制固める
【現地レポート】SKS JAPAN 2025で広がる食の可能性|未利用バイオマス、米麹発酵からルビスコタンパク質まで
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最後に、今年1年の活動を振り返りたいと思います。

今年はFoovoで3回、日本培養食料学会大会・日本細胞農業会議といった外部イベントを含めると計5回、講演/登壇の機会をいただきました。

日本培養食料学会大会・日本細胞農業会議に加え、SKS Japanなどのリアルなイベントで、多くの方と直接お話できたことは非常に貴重でした。また、4社をお招きしたリアルイベントを6月に都内で開催しました。

Foovoセミナーの様子(2025年6月)

一方で、今年は海外出張の機会がなかったため、2026年は現場を見ることに重点を置き、国内・海外の現状を追っていきたいと思います。

今年もFoovoをご覧いただきありがとうございました。企業取材やイベント取材でもたくさんの方にお世話になり、ありがとうございました。2026年も引き続き、Foovoをどうぞよろしくお願いいたします。

 

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アイキャッチ画像はFoovo(佐藤)撮影

 

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