出典:NoMy Japan
代替タンパク質の普及促進を行う非営利シンクタンクのGood Food Institute(GFI)が、「2026 State of the Industry report-Fermentation for meat, seafood, eggs, dairy, and ingredients」を発行した。
本記事では、同レポートの内容に基づいて、2025年の微生物発酵分野の動向をまとめた。文章中で示す括弧はレポートの該当部分を示している。
2025年の微生物発酵分野は、投資額だけを見れば減速しているが、製品の市場投入、施設建設、大手との連携、原料の多様化は着実に進んでいる。市場投入ではバイオマス発酵が先行するものの、精密発酵の市場投入も進む。
一方でGFIは、公的投資は広がりつつあるものの、タンパク質供給の多様化に必要な規模から見れば「入口にすぎない」と指摘している(p6,40)。
投資減少の中で、資金は上流・B2Bへ

出典:The Every Company
2025年の微生物発酵の投資動向で目立つのは、投資額の減少だけでなく、資金の向かう先がより商用化に近い企業へ絞られている点だ。
GFIによると、2025年に発酵企業に集まった投資額は3億5,700万ドルで、2024年の6億3,200万ドルから減少した。2025年に代替タンパク質に集まった8億8,100万ドルの約40%を占めたものの、ピークとなった18億ドルの2021年以降、投資額は減少傾向にあり、投資環境は厳しくなっている(p6,15,16)。
そうした中、「短期的な導入の確かな道筋を示している企業」へと資金が流れつつあるとGFIは指摘している(p18)。
2025年の大型案件は、The EVERY Company(精密発酵・卵白タンパク質)の5,500万ドル(シリーズD)、Formo(精密発酵・カゼイン)の3600万ドル、The Protein Brewery(バイオマス発酵)の3,500万ドル(シリーズB)で、アーリーステージの企業への投資も継続されるものの、従来よりも小規模だったとしている(p15)。
特に、顧客企業に対し、戦略的提携や供給契約などを通じて需要を示しやすい上流・B2B企業に資金が流れているという。
2025年の発酵分野の上位10案件のうち8件は、原料、製造、設備、生産技術に関わる企業で、年間投資額の約70%を占めた。精密発酵企業の投資シェアも2023年の33%から2025年には66%に上がった(p18)。
バイオマス発酵が先行、精密発酵は見えにくい形で上市進む

Planted.steak 出典:Planted
微生物発酵では、精密発酵よりもバイオマス発酵の市場投入が進んでいるとGFIは指摘する(p14)。
スイスのPlantedは発酵プロセスを使用した代替ステーキ「Planted.steak」の需要増に対応するため、ドイツ南部に新施設を開設しており、昨年6月時点で欧州3カ国で2,000箇所以上にPlanted.steakを展開していた。製品全体では欧州23,000箇所以上に展開されている(2026年6月29日時点)。
スイスの大手小売ALDI SUISSEは、スイス国内でPlanetaryのマイコプロテインを使用した代替鶏肉製品の販売を開始した。デンマークのTempty Foodsは、同国セブンイレブンで菌糸体を使用した代替肉を展開し、2026年以降はスウェーデン、フィンランドに進出している。
フィンランドのSolar Foodsはシンガポール、アメリカで市場投入を進めている。
精密発酵でも、イスラエルのRemilk、Imagindairyが同国で乳タンパク質を使用したミルク製品などを発売した。
アメリカでは卵白タンパク質を開発するThe EVERY Companyが全米の小売進出を果たした。同社の事例は、小売に陳列される最終製品の一成分として精密発酵卵白が配合される動きであり、精密発酵による食品素材が見えにくい形で市場投入が進んだ点で、注目すべき動きである。
精密発酵食品の詳細な市場投入状況は、こちらの記事やレポートを参照されたい。
大手は製造・商用化でスタートアップを支援

出典:Solar Foods
施設面では、Tetra Pakがスウェーデンにバイオマス・精密発酵を用いた食品のスケールアップを支援する新施設を開設し、アメリカではPow.bioもAIを用いた精密発酵のスケールアップに向けた新施設を開設した(p11)。
GEAは植物性、精密発酵、培養技術のスケールアップを支援する2,000万ドル規模の技術センターを設立した。中国ではAngel Yeastが酵母タンパク質の11,000トン規模の生産ラインを正式に稼働している(p11)。
大手企業とスタートアップの連携は、製造、スケールアップ、原料の採用、販路の確保を支える形となっている。
イスラエルのStrauss Groupが、ImaginDairyの乳タンパク質を使ったミルクとクリームチーズを小売で発売し、Gad DairiesはRemilkと連携して精密発酵由来のミルクをカフェやレストラン、小売で展開した(p14)。
精密発酵の仏Standing Ovationはカゼイン製造に向けて、欧州味の素食品と長期の戦略的提携を締結した。同社はさらにBel Groupと連携し、乳業副産物である酸性乳清をアップサイクルして精密発酵でカゼインを作る取り組みを進めており、タンパク質の精製工程ではTetra Pakとも連携している(p13)。
スウェーデンのMelt&Marbleは、精密発酵脂肪を使った植物性食品の味や食感の改良に向けてフィンランドの乳業大手Valioと提携した(p13)。
インドでは、Perfect DayとZydus Lifesciencesが合弁会社を通じてホエイ向けの精密発酵施設を建設し、2026年の稼働開始、2027年にかけた段階的なスケールアップが報じられた(p13)。
設備・製造技術では、Bühlerが昨年12月、Pow.Bioとの提携を通じて、連続精密発酵プラットフォームの市場投入を目指すことを発表した(p13)。Pow.BioはATV Technologiesとともに、3,000Lスケールで乳タンパク質の連続発酵に成功し、生産性を3倍超に高め、コストを50%削減したとされる(p35)。
また、ViviciはLiberation Industriesと組み、アメリカで製造する計画を進めている(p13)。
技術面の進展

出典:The Protein Brewery
GFIは2025年のレポートで、発酵由来原料の製造コストを下げるには、収率、生産性、力価などの中核となるバイオプロセス指標を改善する必要があり、その多くは菌株開発に左右されると指摘していた(p29)。
バイオマス発酵では、Quorn製品で長年使われてきたFusarium venenatumの改良が進んだ(p7,29)。また、ソウル大学やKISTは遺伝子改変により、菌糸体のバイオマス量、アミノ酸含量を高める研究を進めている(p29)。
精密発酵では、乳タンパク質や卵タンパク質の機能性を高める研究が進んでいる。GFIは、デンマーク工科大学、Better Dairy、NewMilkBuzz、The EVERY Companyなどの各特許を挙げ、菌株改変の軽減やバイオプロセスの簡素化に向けて、リン酸化の重要性を指摘している(p29)。
また、Verley、ImaginDairy、21st.BIOの事例を挙げ、Aspergillusがタンパク質生産の主要宿主になりつつあるとも指摘している(p29)。
原料面では、グルコースやスクロースのような第一世代原料に依存しない取り組みも進んでいる。GFIは、発酵由来原料の長期的なコスト競争力とサステナビリティは、より安価で低負荷な原料へのアクセスに左右されるとし、食品副産物やガス由来炭素源などの利用が進んでいると説明している(p30)。
Standing OvationやNoPalm Ingredientsは副産物の活用に取り組み、C16 Biosciences、DSM-FirmenichとDTUの研究などでは、酢酸やエタノールなどを発酵原料として活用する方向が示されている(p30)。国内では副産物利用でNoMy Japanが日本甜菜製糖と戦略的提携を締結している。
スケールアップの面では、複数のスタートアップが進展を見せた。Planetaryはスイスで5万リットル規模の工業規模の製造拠点を稼働した。C16 Biosciencesは油脂生産酵母を5万リットルまで拡大し、ÄIOは10,000リットル規模にスケールアップし、1トン生産に成功した(p35)。
残る課題とリスク

出典:Helaina
一方で、GFIは発酵分野がまだリスクを抱えていることも指摘している。
発酵分野は植物性食品や細胞性食品ほど統合のペースは速くないものの、投資家の関心は、ユニットエコノミクス、持続的な需要の兆候、収益化への道筋へ移っているという(p15)。
実際、タンパク質や油脂で発酵プロセスの実証・商用規模での検証が進んでいるものの、持続した稼働、原料の柔軟性、下流工程との統合、立地ごとの経済性が成否を左右する段階に入っているとGFIは指摘している(p36・左下)。
コスト面では、バイオマス発酵は従来の動物性タンパク質や一部の植物性タンパク質と競争しうる水準に近づく試算が出ている一方(p36)、精密発酵はまだコスト低減に向けた道筋の初期段階にあるとされる(p37)。
GFIは、発酵由来原料がコモディティ市場に近づくには、生産コストを低減する検証済みの道筋、透明性のあるTEA、そして菌株性能・原料コスト・プロセス設計の改善が必要だとしている(p37)。
さらに、知財もリスクとして浮上している。
GFIは、Onego BioとThe EVERY Company、FonterraとPerfect Day、Impossible FoodsとMotif FoodWorks、DSM-FirmenichとMara Renewablesなど、複数の知財紛争を挙げ、基盤技術をめぐる長期の知財紛争は業界全体の拡大を遅らせる可能性があると指摘している(p39)。
一方で、特許やライセンスは投資、提携、商用化を可能にする手段でもあり、今後は権利範囲の明確化、ライセンス、合弁などを通じて、イノベーションの保護と事業展開の自由度を両立させることが重要になるとしている(p39)。
公的投資は拡大も、必要規模には届かず

出典:Remilk
GFIによると、発酵分野の初期のイノベーションは主に民間投資が牽引し、公的な研究開発資金を大きく上回ってきた(p40)。
その結果、菌株、バイオプロセス、配合技術などの重要な進展は企業内に閉じた形で蓄積されやすく、分野全体での学習共有や基盤ツールへのアクセスが限られる可能性があると指摘している(p40)。
GFIは、重複研究を減らし、技術的障壁を下げるには、オープンアクセス研究、競争前領域での協力、民間企業との連携への継続的な公的投資が不可欠だとしている(p40)。
Bezos Centers for Sustainable Proteinや、iFABなどをエコシステム強化に役立つ事例として挙げつつも、必要な公的資金規模から見ればまだ「入口にすぎない」と指摘している(p40)。
公的投資を重視する姿勢は、各国でのバイオものづくりの施設整備にも表れている。
GFIによると、2025年にはオーストラリア、カナダ、インド、韓国、米カリフォルニア州などで、公的支援を受けたインフラ施設の整備が発表された(p43)。
中国でも昨年5月、国家開発投資集団(SDIC)がバイオものづくりイノベーションセンターを披露し、SDICファンドがバイオ企業25社に40億元(約950億円)超を投じていることが報じられた。
各国の動き

出典:首相官邸
日本では、2025年11月に発表された成長戦略でフードテックが重点分野の1つに位置づけられ、今月発表された官民投資ロードマップ案では発酵技術が日本の強みとして言及されている(p47,54)。
オーストラリア・ニュージーランドでは、Eden Brewが精密発酵カゼインの申請を完了し、Impossible Foodsに続く認可事例になるか注目される。
中国では、国家衛生健康委員会(NHC)による市販前承認制度で新規食品の規制を行っており、2025年7月時点で発酵由来原料を含め、26件の新規食品申請を受理しているという(p53)。昨年末にはマイコプロテインで初の認可事例が確認された。
韓国では、Food Tech Industry Promotion Actが成立し、発酵由来製品を含む革新的食品について、スタートアップ支援、研究施設・設備へのアクセス、早期の市場参入を支援する枠組みが整えられた(p54)。
欧州では、オランダで一定の条件下で、精密発酵・バイオマス発酵食品の認可前試食が可能となった(p54)。今月にはThe Protein Breweryの菌糸体原料がEUで承認された。
一方、アメリカではGRAS自己認証の見直しが提案されており、最終決定されると、GRAS自己認証制度は廃止され、新規食品の展開を目指す企業はFDAへのGRAS通知が義務付けられることとなる。
本記事の内容は、GFIレポート「2026 State of the Industry report-Fermentation for meat, seafood, eggs, dairy, and ingredients」の内容に基づいています。文章中で示す括弧はレポートの該当部分を示しています。
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アイキャッチ画像の出典:NoMy Japan























































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